Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。

「それ、変な物入れてねぇーだろうな?」

「い、入れませんよ! 普通には……食べれる、はずです」

 疑うような視線。
 けれどしばらくして、軽くため息をついたと思えば、

「マズかったら、責任取れよ」

 小さく言葉を発すると、さっと私のお弁当を奪った。

「ふ~ん。見た目はいいな」

「早く食べりゃあいいのに。食べないなら、オレが貰うよぉ~」

 手を伸ばす賀来先輩に、梶原先輩は背を向ける。
 賀来先輩に食べられた時とは違い、梶原先輩だと、変にドキドキしてしまう……。
 物凄い注文とか、これの味付けがどうのって、細かに注意されるんじゃないかって気がして心配だよ。
 ――未だ、無言の梶原先輩。
 背中を向けているから、こちらからではどんな反応をしているのかわからない。
 先輩にとっては美味しくないから、どう言えばいいか困ってるのかなぁ。
 いや。もしかしたら予想通りマズかったから、どんな悪戯をしようと考えてたり――。
 不安な内容が、頭を埋め尽くす。
 どうか何もされませんように! と、神にも祈る気持ちで、先輩の言葉を待つ。



「――気に入ったらしいな」



 食べ終えた晶先輩が、そんな言葉を口にする。
 えっ? と疑問を感じていると、隣に、人の気配を感じた。振り向けば梶原先輩が立っていて、ん、と短い言葉と共に、目の前にお弁当箱を差し出した。
 あっ……空っぽだ。
 完食に驚いていると、先輩は私の頭に、ぽんっと手の平を置く。

「ま、食えなくはないな」

「そ、そうですか……」

「マズけりゃいじめてやれたんだがな」

 残念だと言い、梶原先輩はドアへと向う。
 ほ、本当によかったぁ……。
 マズかったらどうなっていたことかと、今更ながら冷や汗が出てきた。

「つーことで――明日から、オレのも作って来いな?」

「は、はい。――えっ?」

 思わず返事をしてしまったものの、よく考えれば、私がお弁当を作る義理なんてない。けれど、既に肯定の言葉を口にしてしまい、しまったと思った時にはもう遅く。

「ちゃんと持って来いよ。ま、忘れたら忘れたで……それは面白いが」

 ふふっと怪しい笑みを見せ、梶原先輩は、生徒会室から出て行った。
 しーんと静まり返った会室で、私たちはしばらく、顔を見合わせていた。

「志貴をうならせかぁ~。これはもう頑張るしかないね、真白ちゃん」

 ははっ、と苦笑いを浮かべる賀来先輩。
 私も同じように、苦笑いを浮かべるしかできなかった。
 気に入ってもらえたのはいいけど……先輩のあの目がいけないんだ。あの目で見られると、逆らうなんて考えは消えてしまう。

「本当、災難だな。とりあえず、持って来た方が身の為だ」

 でないと何をされるか……と、晶先輩も心配してくれているのか、そんな言葉をかけてくれる。
 それに私は、うな垂れたたまま、先輩たちの言葉に共感した。
 持って来たら来たで何かありそうだけど、それ以上に、持って来なかった時に何をされるんだか。

「……意地悪されたくないので、頑張って、持って来ます」

 深いため息をはき、私は今から、明日のお弁当の中身を考えていた。
< 9 / 39 >

この作品をシェア

pagetop