Sweet kiss〜眠り姫は俺様王子に捕まりました。
「でも、本当に賀来先輩とだったらお似合いだよねぇ~。先輩も頭いいらしいし、あ~羨ましい! 眼福よ眼福!」
こう言うのは、話してて楽しいな。それに、紫乃ちゃんが褒められると言うか、こうして人気があるのって、こっちまでうれしくなっちゃう。
「それじゃあ掃除も終わったし、教室に戻ろっか」
言われて、私は手を洗ってトイレを出た。
教室に戻れば、紫乃ちゃんは少し疲れた表情をしていて。何があったのかと聞けば、彼氏についてきかれたの、と言われた。
「私も、さっき同じ班の人から聞かれちゃった」
「ある程度の覚悟はしてたけど、なかなかにウザいわ」
はぁ~と、豪快にため息をはく紫乃ちゃん。
彼氏が賀来先輩だと言うのは言ってないらしいけど、噂があるならもう堂々としようかなと話していた。
「そうだね。秘密にしてるの、無理っぽいし」
「私たちでこれなんだから、真白たちのも噂があるはずよ」
「私は今のところ聞かれてはないよ」
「ま、お互い相手が相手だし、その辺りは早めに話し合った方がいいわね」
一応、和泉さんのことがあるからしばらくは言わない方向で決まってたけど、紫乃ちゃんみたいに噂が広がって聞きにこられたら、正直、嘘をつきとおせる気がしないなぁ。
それから帰りのHRの時間になり、先生からの話を聞いて学校は終了となった。
携帯を見れば、先輩からのメールが。
先輩、ちょっと遅くなるんだ。
カバンを持って紫乃ちゃんに近付けば、紫乃ちゃんも同じメールが来ていたようで、私たちは校門前で先輩たちが来るのを待っていた。すると――。
「あら。二人とも彼氏待ちかしら?」
そう言って、翠先輩が近付いて来た。
「はい。今日はちょっと遅れるみたいで」
「そうなのね。じゃあ私もここで待とうかしら」
「先輩も、誰か待ってるんですか?」
「そうよ。二人は知ってるかもしれないけど、和泉さんがまた来たでしょ? だから警戒をって、うちの許嫁が迎えに来るのよ」
言われて、私と紫乃ちゃんは驚きの声をもらした。
先輩の婚約者が、ここに来る?
なんだか恥ずかしくなり、私は紫乃ちゃんと顔を見合わせていた。
「せ、先輩の婚約者さんって、どんな人なんですか?」
さすがの私でも、先輩の恋に興味がわかないわけもなく。私は思わず、翠先輩に質問をしていた。
「う~ん、そうねぇ。警戒心の強い野良猫、かしら?」
「野良猫、ですか?」
警戒心が強いって言うなら、人見知りとかするのかなぁ?
「見た目の特徴とかはどーなんですか?」
紫乃ちゃんも興味があるのか、翠先輩に質問をする。
「見た目? そうねぇ~。身長は八十五ぐらいで、真っ黒なストレートに、耳にかかるぐらいのサラッとした髪型かしら。顔はスッキリで、切れ長な目をしてるわ。だからか、睨んでるってよく間違われるんだけどね」
そう言って、先輩はくすっと笑った。
「性格は、どんな感じなんですか?」
「真白ちゃん。今日はやけに知りたがりねぇ~。性格は――?」
そこまで話すと、校門前に黒い普通車が止まる。これが婚約者さんかな? と思っていると、後部座席から男性が降りて来た。
「――翠、迎えに来た」
現れたのは、先輩の言う通りの人で。あまりのイケメンぶりに、思わず見惚れてしまっていた。
「めちゃくちゃイケメンじゃないですか!」
紫乃ちゃんは思わず声が出てしまったようで、それに対して先輩は、くすっと笑みをもらしていた。
「自分の許嫁が褒められると、やっぱりうれしいわね。――環(たまき)さん。こちら、生徒会の書記で、望月真白ちゃんと藤原紫乃ちゃん。仲良くしてる後輩よ」
「そうか。――いつも、翠がお世話になっています」
私たちにも礼儀正しく頭を下げてくれるその人を見て、やっぱり先輩はいいとこのお嬢様なんだなぁって、改めて実感した。
「二人とも、それじゃあまたね」
後部座席のドアを開ける環さん。乗り込む先輩を見送ると、私たちはため息をもらした。だって、こんな形で先輩の婚約者さんに会うなんて、思ってもみなかったから。
「今日は、驚くことばっかりだね」
「だねぇ。この分だと、城野先輩にも相手が居るって言われても驚かないわよ」
そう言えば、晶先輩のその手の話って全く聞かないなぁ。余程上手く隠しているのか、それとも居ないのか。どっちにしても、先輩も彼女が居るなら、会ってみたい気がした。
「――あ、先輩たち来たよ」
言われて振り返ると、手を振る賀来先輩と、その横を歩く梶原先輩の姿が見えた。
「悪い、待たせたな。――何かあったのか?」
「いいえ。さっきまで翠先輩が居て、そのう。初めて、婚約者さんに会ったんです」
「東雲が来てたのか。そりゃあ珍しい」
そう言って歩き出す先輩。私は先輩の横を歩きながら、東雲さんについて聞いてみた。
「先輩は、東雲さんと面識あるんですか?」
「あぁ。と言っても、オレらも随分と会ってないけどな」
「そうなんですね。――あ、先輩に相談なんですけど」
「相談? 珍しいな」
「私のって言うか、紫乃ちゃんにも関係あることなんですけど」
「藤原がどうかしたのか?」
「実は今日、賀来先輩と紫乃ちゃんは付き合ってるのかって聞かれて。先輩たちでこれだから、私たちもそう言う噂があるんじゃないかなぁって」
「まぁ、今もこうして帰ってるわけだしな。隼人曰く、既に噂はあるらしいし」
やっぱり……既に噂があるんだ。
今まで聞かれなかったのは、単に運がよかっただけなんだろうなぁ。
「和泉さんのことがあるのは分かりますけど、いつまで隠しておきましょうか?」
「さすがに限界かもな。――ま、時期を見て言うさ」
そう言った時の先輩の顔は、どこか怪しい笑みをしていて。
久々に見るその顔に、私は嫌な予感を感じていた。