Love Box:)
いつまでも弱々しく流れるヘッドフォンのスイッチをぶちりと切った。
途端、このどよめいた空間がに裂け目ができたようで、あたしはそこから息を吸った。
『終わりにしよう、達矢』
顔は合わせずに、斜め下を向いて呟いた。口の中にはメロンバニラとたっちゃんの味が残っていた。
「みちる、やだよ、俺…」
『あたし、東京を離れる。前から留学したいと思ってたし、もう会うことはないわね』
「そんな、なぁ、冗談だろ?」
信じられないとでもいうように、その乾いた口が半分笑っていた。
やっと取り乱したのね。でももう遅いのよ。あたしはずっとあなたの傍でそうやって息ができないでいたんだから。
『冗談なんかじゃないわ。それで向こうの人と結婚して、新しい世界を作るの。もう今までみたいに半分じゃなくて、あたしでいっぱいの1人のみちるになるのよ』
そう言ってにっこり笑った。
けれど実際のところ足も手も震えていて、まるで生まれたての泳げない生き物なのに、大海原のど真ん中へ放り出されたような気分だった。
『さよならね、井上達矢。あたしの半分だった男よ、壊されない新しい世界を作るのね!』
笑いながら戸口へと進むあたしを見つめながら、たっちゃんは呆然と口を開けて、瞳からは絶えず涙が伝っていた。
パタン。
それでもこの世界を完全に破壊する扉を勢いよく閉めた。
さぁ、家に帰って荷物を纏めなくちゃ。新しい世界に引っ越すんだから。
たっちゃん、一回壊れちゃえばいいのよ。
そうやっていなくなったあたしを追い求めて泣き続けて、ほら、息ができないでしょう?
そこからがまたスタートなのよ―――新しい世界への。
一度ズタズタに壊さないと創れないものなのよ。
『あたしは一足先に、前を進んでいることにするわ…』