もしも雪なら
「ちょっ…ぁ…おいっ」
屋上の縁に真っ直ぐ伸びた脚が縁を蹴り、暗闇に飛び込んだ。
目で追ったが、事の顛末に後ろを振り向けないまま、頭上で視線が固まる。
はっきりとは見えなかったが、恐らく人間。
ぼやけた月が縁取っていたのが目に焼き付いていた。
寒いはずなのに背中には汗が伝い、ビールの缶の水滴が左手の甲に流れ、そこで初めて全身に鳥肌が走る。
部屋に入って警察に電話しないと…
いや、
もしかしたら見間違えただけかもしれないし…
頭の中でぐるぐると色んな思考が駆け巡った。
時間は既に深夜の2時を過ぎている。
非科学的な物なんて信じちゃいない。
でも、あれが現実だとしたら…
俺はゆっくりと振り返り、足元を確かめるように歩きながらベランダの端まで行き、下を覗き込んだ。
あ…れ?
目にしたのは戦慄な状況とは程遠い、よくある都会の風景だった。
犬の散歩をする人、ここまで聞こえそうな大声で話す若い恋人達、家路を急ぐ社会人…
なんだったんだ?