もしも雪なら
結局、一睡も出来なかった。
なのに、頭も病んでいない。
アイツにそんな力があるのか…?
「何してんの?」
鏡に映る俺の後ろでお袋がひょっこりと覗き込んでいた。
「いや、別に?」
引っ込みのつかない手を、さも[マッサージしてますよ]的な感じへと持っていく。
「あんまりやるとハゲになるから止めなさいよ…」
そんな健闘も虚しく、お袋に呆れられてしまった。
何やってんだ、俺。
そう思いながらも手は自然にオデコに行ってしまう。
そして、また見えるお袋の顔。
「なに?」
「今日、どうせ仕事早く終わるんでしょ」
「分からんよ」
「少しはどっか行きなさい。天花ちゃんだって息詰まっちゃうでしょ」
「…意味分からん。出掛けたいなら勝手に行くだろ」
せっかく痛みが無くなったのに、また痛くさせんなよ…
だいたい、昨日は寄るなとか言ってたクセに。
今日は一緒に出掛けろとか、言ってること滅茶苦茶だろ。
俺は持つ物だけ手にし、「行ってくる」とだけお袋に投げて家を出た。