もしも雪なら
向こう側で妙に呼吸を繰り返す音と息を飲む音が聞こえていた。
「千梛?」
そう呼ぶと、息を潜めたみたいに
「もしもし…」
確かな声が鼓膜を震わして、耳の中で呼応していた。
「なっ…お前…どっ…」
「ガクちゃん…?」
「うん。え、…ちょっ…待っ…」
言葉にならない声
初めて話したとき以上の反応が身体全体を駆け巡る。
「いま部屋…?」
「そだけど…?」
「外、見てみなよ…」
「雪だ…」
東京には珍しい雪がハラハラと舞っていた。
音も無く
ゆっくりと降りて
人も街も白く染めていく
同じ時間
広い空の下
見てる景色は違うけど
距離もあるけど
「ガクちゃん」
「ん?」
「話したいことが沢山あるんだ」
「俺も」
もしも…
もし、近い未来があったとして
それが羽根のように舞い降りてきたら…
「ちゃんと聞いてね。あのね…」
僕はきっと
この手を差し伸べて
いつまでも見守るだろう