イマージョン
髪の毛女と話している見覚えのある後ろ姿。モデル体系のナルシスト。私は彼を試す様に、わざと彼の横に立った。12月の雨は冷たい。カーディガン1枚だけで来るんじゃなかった。彼と仲が良いままだったら、きっと傘を差し出してくれたかもしれない。小さな折り畳み傘で自分の身体半分が濡れてしまったとしても。私には分かる。火傷や身体を優しく撫でてくれたり抱き締めてくれたりしたから。案の定彼は前を見つめたまま。多分信号が早く青にならないか考えているのだろう。ほら、早足で歩き出した。ガシャン。彼の鞄から何か落ちた。私は屈んでそれが何か確かめる。ファンデーションだった。引いた。髪型を気にするのは許したとしてもファンデーションを使う男は初めて見た。舞が教えてくれなかったら私は、完全なるナルシスト男とは気が付かずに彼の虜になり馬鹿な女になる所だった。髪の毛女よ。あいつはファンデーションを使ってるんだぜ。あんたは髪を、あいつはファンデーション。馬鹿者同士だな。ファンデーションに触りたくないのと、信号が点滅していたから走り出す。聖に追い付いた。まだ馬鹿が治らない私は、それでも存在を知ってほしくて彼を追い越す。ずぶ濡れなの私。見えますか。