ｲﾏｰｼﾞｮﾝ

「美優さん」
ﾎﾞｰｲが私の所に跪き他のﾃｰﾌﾞﾙに指名が入ったと合図をする。
「なに～。行っちゃうの～？」
「申し訳ございません」
「ごめんね。すぐ戻るから」
お願いします。と、変わりに先輩の流香さんがと交代した。
「美優ちゃ～ん！来たよ～！」
私に向かって、ひらひら手を振る多田は、上着を脱ぎﾈｸﾀｲを緩めｽｰﾂの堅苦しさから解放されて気持ち良さそうに大股でﾄﾞﾝとｿﾌｧに腰掛けている。
「こんばんは。待ってたよ～」
待ってねーよ。と言葉を飲み込みながら手際良くｸﾞﾗｽに氷を入れ水割りを2人分作る。
「いただきまーす」
多田は喉が渇いていたのか一気に呑み干す。私も酒の量を増やしたくてｶﾞﾌﾞ呑みをする。
「相変わらずいい呑みっぷりだね～！美優ちゃん最高！」
「お酒大好きだもん！」がははと笑い身体に寄りかかり、ﾜｲｼｬﾂのﾎﾟｹｯﾄから煙草を取り出した。火を点けてやり、私も煙草を吸う。
「しかしあれだね。もっとｶｰｯと呑みたいね」
「ﾋﾞｰﾙ呑む？」
「分かってるね～！さすが！俺達分かり合えてねぇ？」
いや別に。と言う顔を多田とは反対側の場所で見せながらﾎﾞｰｲにﾋﾞｰﾙ2つ。と合図をする。
「あたしお腹空いちゃったよ。ﾒﾆｭｰ持って来ていい？」
「なーんだよ。しょーがねぇなぁ。一緒に食おうぜ」
「やった。ありがとー」
猫なで声で多田の腕に絡み付く。加齢臭がする。多田が見ているかもしれないのでﾍﾟﾝｷﾞﾝ歩きでﾒﾆｭｰを取りに行く。いつ何時も気を抜いてはいけない。早くしろよと山川も見ているかもしれない。ここでは美夢を見せてはいけない。ぶりっこで甘え上手なｱﾝﾄﾞﾛｲﾄﾞ美優にならなければいけない。