ｲﾏｰｼﾞｮﾝ

気分が悪いまま促され、大衆居酒屋に着いた。舞が先陣きって店のﾄﾞｱを開けると、居酒屋独特の、もやっとしていて出来上がった人間達が大声で話したり馬鹿笑をしている。うるさい雰囲気は、いつもの夜の仕事に慣れていると思っていたけれど、それとは比にならない騒がしさに益々、反吐と嫌気が刺す。そして見知らぬ人と呑まなければいけない試練が、もう直ぐそこで待っている。でも私は吐かない。他人の為には吐かない。異物を取り入込んだ時だけ吐くのだ。聴覚を鈍くする機能が備わっていない自分を呪いつつ、俯いて歩を進めていたら、
「あ、いたいた」
その声に私はﾋﾞｸｯとして顔を上げると舞が１番奥に有るﾃｰﾌﾞﾙに向かって手を振っている。
声に気付いた男2人は振り向き笑顔で手を振り返す。私達より年上に見える。
「お待たせしました。連れて来ましたよ」
「初めまして。浅倉です」
「初めまして。西村です」
「浅倉さん初めまして。あ、美夢、西村さんとは知り合いなんだ。浅倉さんとは部署が違うんだ」
「へぇ…」
此処が呑み屋とはいえ、仕事ﾓｰﾄﾞにはなれないから、どうしても無愛想になってしまう。恐らく相手も、そんな印象を受けているだろう。もう酒をｶﾞﾌﾞ呑みして自分を消すしかない。
「私、舞です」
「初めまして」
浅倉と言う男が挨拶する。
「で、この子が友達の美夢です」
「隣りの子はﾐﾑちゃんって言うんだ？」