イマージョン
私は舞と変わらない。あれだけ蔑んでおきながら、今更になって浅倉さんのベッドの上に腰かけている自分が恥ずかしくなった。黙って帰ろうか…。帰り道は分からなくても少し歩いて、その辺でタクシーを拾って駅まで行けばいい。そうすれば、まだ間に合うかもしれない。
「お待たせ」
ドアの開く音にビクっとしたら、彼は髪を乾かしながら上半身裸で私が手を付けなかった、お茶を持って来てくれた。
「ありがと…」
びっくりしたのと上半身裸の彼が隣に腰かけて来た事による緊張で一口しか飲めなかった。
「俺も喉乾いた」
同じグラスでグイッと飲み干した。
「…自分の持って来ればいいのに」
「面倒くせーし」
上半身裸といい、今の行動が計算なのか考えている間に耐えられずに、
「部屋、何も無いね」
と、率直な感想を述べた。
「あぁ、離婚したばっかだからね」
「…みんなと居る時、言わなかった…」
「西村は、もちろん知ってるし、済んだ事だから言う必要ないでしょ」
「…ねぇ…チィ…」
キスをされた。強いキス。強いキスから、フレンチキスを何度となく。それから、深いキスをされてベッドの中に潜り込んでしまった頃には私はとろけ、身体の力が抜けて行った。誰かが言っていたアルタード・ステーツの世界観に似ていると、失いかけた脳の片隅で思いながら。
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