イマージョン
「山川さん久しぶり。ごめんね。ずっと体調崩してて…」
「ふぅん」
私が前に倒れたの忘れたのか?久しぶりに逢って、てめーが指名したくせに随分な態度じゃねぇか。おぉ、やったらぁ。
「何呑む?」
「ボトル空けよーぜ。麦焼酎の」
あーあの安物ね。不味いやつね。は?このボトルは多田のなんだけど。
「これ今日全部呑むぞ」「そうなの?まだ半分以上あるよ?大丈夫?てゆーか、これは別のお客さんの…」
「お前も呑むんだから大丈夫だよ」
この人、私の事お前呼ばわりしてたっけ。あー面倒くさいから、どーでもいいや。
「違うだろ」
「え?」
「そーじゃねーだろ」
「何が?」
「だーかーらー」
久しぶりに逢った山川は何だか苛々している。私も苛々しているから、余計苛々が増す。その内、苛々が沸点に達して、こいつに火傷を負わせるかもしれないけれど、それはそれで楽しいと思った。私が持っていた青いボトルの麦焼酎を奪って、

「お湯割りはー、お湯を先に入れんの。そんな事も知らねーの?」
そうかしら。それは山川ルールじゃないのかしら。そんな事初めて聞いたわ。初めまして、山川さん。短気な山川さん。
「…ごめんなさい…」
美優は一応しょぼくれみせた。ここでキレたら負けだと何故か思った。何故かは分からない。何故かを分析しても良かったのだけれど、今はとにかく面倒くさい。多田は多田で視界に入る所に居る為、さっきから私をチラチラ見ているのが気になるから。
「いただきまーす」
とか言って、お上品に一口、焼酎を口に含むと思わず不味いと言ってしまいそうになる位不味い。けれど、そうこうしている内に山川はもう呑み干していた。
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