イマージョン
変な事を思い出してしまった。義則が免許を取る前、義則の家で遊んでいて自分の家へ帰る時、自転車で、いつも送って貰っていた。最寄り駅が同じだったけれど、家は反対方向で遠かったからだ。制服だから勿論スカート姿。短く裾上げされたスカートで眞奈の自転車の様に義則の肩に掴まって走る。坂道を下る時は自分でも分かっていたけれどパンツが丸見えになっていた。傍を歩いていた違う学校の女の子達に笑われていたけれど、スカートが捲れない様に左手はスカートを抑え、右手だけで義則の肩に掴まるなどと言う器用な事は出来なかった。今も眞奈の自転車で風を切って走っているけれど落っこちやしないかドキドキしながら乗っている。
「ぅおっ!」
ドサッ!重たい身体が落ちた。
「だ、大丈夫?!」
義則と下り坂の思い出に支配されていたら、本当に下り坂で落ちてしまった。
「だ…だいじょーぶ…」
顔を赤らめながら答えながら、今日はデニムを履いて来て良かったと思った。本当に良かった。それよりも一刻も早く態勢を整えなければ。恥ずかしい。誰かに見られてしまう、と思いかけていたら既に知らない、おじさんが、ははは。と笑っている。余裕で笑っている。お前は立ち乗り出来るのか?19歳の私でさえ落ちるのだから、あなたみたいな、おじさんじゃあ到底無理だろう?出来るから、そんなに余裕な顔で笑っていられるのか?え?どうなんだよ?立ち去る、おじさんの背中を睨みつけ、義則の事を、また思い出すから落ちてしまったんだ。と思った。私はまだ、義則に依存しているのだろうか。
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