高校四年生(ラジオドラマ化決定!)



トントンと規則的にドアを叩く音。つい窓に持たれ掛かり寝てしまった俺は、寝ぼけ眼で音の方に意識を向ける。


そこには遷崎と遷崎の横に、テレビで見ていた美しい令嬢桐生美玲とは程遠い、顔に砂が付着し傷だらけのボサボサ頭の女の子が居た。


手も靴も制服も汚れてる、転んだなんて言い訳は絶対通じない姿だ。


「悪い、尚輝ちょっとずれてくれ」


俺は遷崎に言われ右にずれ、桐生美玲を隣に座らせた。余計な考えだが、女の子を左側に座らせた方が落ち着くのは、俺と遷崎は一緒だなと思った。


「…………」


遷崎が運転席に戻り、エンジンをかけるまで沈黙が続いた。


さっきまでイジメを受けていた、傷だらけの女の子が隣にいて何て声を掛けるのが適切か俺には到底思い付かない。


「大丈夫?」なんてのは、一番口にしてはならない軽々しい言葉だとは解る。


俺自身、友達に裏切られ不登校で退学になったのに『大丈夫?』なんて話し掛けられたとしたら、心から心配して言ってくれたとしても腹が立つ。

“見ればわかるだろ、普通じゃねぇんだから”


そう言葉を嫌みたらしく返すと思う。同情や憐れみほど情けないものはない。


「尚輝、美玲は今声を出すことが出来ない失声症になってる。美玲の言葉は携帯のメール機能でやるから覚えといてくれ」

失声症……声が出ない?生まれつき喋れないってことか?いや、そんな話は遷崎から訊いてない。

なんとなく映画か漫画で観た記憶があるな、ストレスか何らかの精神的苦痛が原因で声が出なくなるって。


ってことは何らかの切欠で、再び声が出ることもあるかも。


俺は声が出なくなるほどの原因が気になって仕方なかった。



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