LOST MUSIC〜消えない残像〜
「本当にお人好しだな、智也は」
智也の視線は、もう見えはしない千秋の姿を追うように、ずっと廊下へと向けられていた。
「そんなことないよ。……本当は行かせたくなかったさ」
やっと俺の方に向き直った智也は、情けなさそうに眉を八の時にして笑う。
その瞳は切なげに揺れていたけど、智也らしく優しさに満ちているように見えた。
「俺のことより、奏斗戻ってこないか?あの頃みたいに一緒に」
こんな俺にも智也の優しさは平等で、何度も優しくしてくれる。
でも、俺の答えは変わらない。
「時間は戻らないよ――」
描いた青写真はもう真っ黒に、塗り潰されてしまったのだから。