LOST MUSIC〜消えない残像〜


「星羅――!」


力一杯叫んだ。


もう手放したくない――。


でも必死に伸ばした手が掴んだのは空ばかり。


肩が大きく上下するほど荒くなった息。


手の甲で額を拭えばじっとりと濡れる冷や汗。


辺りを確認すれば、俺の嫌いな朝の光が部屋に満ち、タオルケットは皺くちゃに蹴り飛ばされていた。


何だ、全部……夢か……。


「何やってんの!遅刻するわよ!」


下から煩いおふくろの声が聞こえる。


現実に引き戻された俺は、覆い被さった前髪を無気力な手でかきあげた。


……そういえば今日は七月七日だ。


だから俺にこんな夢を見せるのか……?



< 112 / 299 >

この作品をシェア

pagetop