LOST MUSIC〜消えない残像〜
すっかり力をなくした足がやっとのことで帰路に着く。
無効になった約束。
信じたくなかった俺。
分かり切っていた顛末。
それでも信じたかった俺。
俺の中ではそんな矛盾がいつも堂々巡り。
頭は理解しようとし、心はそれを拒否するんだ……。
俺という人間が愚かに見えて、自分を嘲笑った。
その刹那、ある音が聞こえて足が止まる。
微かに聞こえる啜り泣くような声。
俺の家のちょうど斜め向かいの家の塀の前に、蹲る人の影が見えた。
闇の中、街灯の薄明かりに照らされた姿に、俺は立ち尽くす。
――それは、笑顔しか知らない、錫代の涙だったから――。