LOST MUSIC〜消えない残像〜
軽快なリズムの足音と共に、黒く長いケースを大切そうに背負い近づいてきた一人の少女。
「部室、一緒に行きましょ!」
目の前には太陽に負けないほどきらきらと輝く錫代の笑顔。
……この間見た啜り泣く姿は幻だったのか?
記憶を辿れば、俺の胸の中だけに留めた錫代の涙が、そこにある。
誰にも言っていないし、本人さえ見られたことを知らないが、俺は七夕の夜、確かに見た。
なのに、今の太陽のような錫代からは、あの泣き顔は想像できるはずもない。
そんな錫代に笑顔で手を引かれ、歩き出す俺。
でも、頭の中では錫代の不可解な謎が渦巻いていた。