LOST MUSIC〜消えない残像〜
こんな時優しく空気を変えてくれる存在は、今は一人だけ――。
「まあ、じゃあ、今日の練習始めようか。そろそろこの曲やってみよう、翠月ちゃん」
智也は昔から包み込むような優しさをもってる。
自分のことでいっぱいな俺にはないものばかりだ。
座っている翠月の前に自然にしゃがんだ智也は、同じ目線になって安心するような笑顔を向ける。
すると、そっと一枚のスコアを差し出した。
翠月は目を見開いて、おずおずと手を伸ばす。
「……六等星……」
短い題名を震える声で大切そうに紡いでいた――。