LOST MUSIC〜消えない残像〜


雨音に溶けて、微かに聞こえてきたのは抑えつけた泣き声。


「私なんかが何をしたって、お父さんもお母さんも私を、見てくれない……」


そして、錫代の心の叫びが、静かに響きわたる。


その静かなる叫びは、悲痛過ぎて、俺の胸にも苦々しく広がっていった。


胸に入り込んだ哀しみに、俺まで苦しくなる……。


どれだけの哀しみを錫代は隠してきたのだろう、その小さな胸の中に。


「死んだ人には、いつまでも適わないですね」


そう言って振り返る錫代は、切なげな笑顔を浮かべてた。


まるで、笑顔という名の雲で、心の傷を隠すかのように……。



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