LOST MUSIC〜消えない残像〜


でも、千秋はそんなのどこ吹く風で、炒飯を堂々と摘み食いすると幸せそうに顔を綻ばせた。


「やっぱり智也はそんな困った人を面倒見るお母さん」


千秋はもちろん悪気はなくにっこり笑って言うが、智也の皿に盛り付ける手が微かに止まる。


「……あはは、お母さんかぁ……」


力なく紡がれた言葉は擦れて消えそうだった。


いくら千秋が鈍感だと分かっていても、きついだろう。


「でさ、あたしと星羅は笑って見てたんだよね」


ふいに飛び込んできた“せいら”の三文字――。


胸が苦しくなっていく、勝手に思い起こされる星羅の無邪気な笑顔に……。



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