LOST MUSIC〜消えない残像〜
「まったく、智也ならもっといい女ができただろうに。何でこんな鈍感な奴……」
俺は呆れたように言い捨てて、後頭部をこつんと幹にあて、全身を木に寄り掛からせた。
「奏斗だって鈍感じゃん」
さっきまで泣いてたかと思えば、千秋は頬を膨らませて拗ねている。
そして、俺のハンカチを握り締め、鼻までかみそうな勢いで涙を拭っていた。
「俺は鈍感じゃねぇよ」
静かに反論しながらも、その千秋の様子に笑いが零れそうになる。
すると、千秋はため息を吐いてゆっくり手を止めた。
「……それにしてもあたしってさ、最低だよね」