LOST MUSIC〜消えない残像〜
千秋のワントーン下がった声が明確に俺を突き刺して、動けなくする。
ただ真っすぐ俺を見る千秋の眼差しに、俺は勝てなかった……。
弱い心を全て見透かされてるみたい――。
でも、千秋は呆れたようにため息を吐くと、鞄を弄んで大きく振りながら再び歩きだした。
「そりゃ、奏斗の辛さは分かるよ。でも、雅臣だって辛いの」
だんだん細っていく声。
鞄の揺れも小さくなって、細く伸びる影は不安定に震えていた。
「同じだから分かるの……。十年以上の片思いの辛さは……」
切ない響きが秋へと変わる空気に溶ける。
千秋はただ黙って背を向け、空を仰いでいた。