LOST MUSIC〜消えない残像〜
消えない残像
春の風が俺の横をすり抜けていく。
歩いていれば嫌でも目に入ってくるのは、満開の桜。
そしてそんな春の訪れに浮かれる奴等の喧騒。
同じ制服に身を包んだ者達は一様に、新しい春の始まりに胸を躍らせている。
……でも、そんなの俺には関係のない話だ。
かつては綺麗に映った薄紅色も、春の香りがする風も、もう俺には感じられない。
舞い落ちてきた花弁は、ただのちっぽけな欠片。
春風もただ鬱陶しいだけ。
もう俺の目に映るもの全てが、モノクロになってしまったのだから。
その時、桜の木々の間を強い風が一瞬にして吹き抜けた――。