LOST MUSIC〜消えない残像〜
俺はおもむろに窓を開け放した。
春といえど、まだまだ冷たい夜風は一気に部屋に吹き込み、俺の肺をも満たす。
まるで、中からも冷たいナイフで突かれているようだった。
こうして俺には夢を見る隙も与えてはくれない。
突き付けられるのは、ゲームのように修正のきかない残酷な現実ばかり。
視線の先にあるものがそれを物語っていた。
それは、真向いにある隣の家の窓。
……もうずっと、あの部屋に明かりが灯るのを見ていない気がするのは俺だけか。
風の冷たさとは裏腹に胸はあつくなり、刺で刺されたような痛みが襲う。
他人には短い月日でも、俺には永遠のように感じられるんだ――。