LOST MUSIC〜消えない残像〜
「ほら、どの程度弾けるのかやってみろ」
俺は余計な感情を胸の奥の扉の向こうに押し込んで、機械的に指導に集中する。
そして、錫代が持参した赤のムスタングをアンプに繋いで手渡せば、錫代はおずおずと受け取った。
ネックに手を掛けながらも定まらない左手の指先。
ガチガチに固まった小さな肩。
やっと出た音は間の抜けたなんとも心地悪い音。
俺は赤と白のボディを気の毒に思いながら、落胆のため息を吐いた。
「それがあんたの実力か?」
できないにも程がある。