零才塔
零才塔
暗く深く沈んだ夜。
その塔は闇の中、人間の視覚では確認する事が困難な程、ひっそりそこに立っていた。
満月の夜にだけ扉が開き、天へと祈りを捧げる場所。
それがこの零才塔。
古くの人が、全てを零《ゼロ》に戻したいと願い付けたその名前の由来まで知る者は現代にはおらず、祈りを捧げる守人すら……とうの昔に忘れてしまった。
1000段もの階段登りきると、そこにはがらんと広い円形の広間が広がり、守人を迎え受け入れる。
満月から満月の間、そこへと消えた守人は次の守人と交代することなく、姿を消すと云う。
水も食事も摂らず、しかし骨すら残っていない彼らを誰も探す事が無いのは12ヶ月の後、ひょっこりと何処からか顔を出すからだ。
塔へ登った記憶を失くした守人は再度、順番に満月がやってくると塔へと消えていく。
天に仕える者として至極当然の行為だと言わんばかりに、彼らはその塔に登り続ける。