零才塔



「じゃあねぇ、森に無くて湖にあるものは?」



アジュがにこにこしながら聞く。すぐに分かってよね?と尖らせる唇が可愛らしい。



まるで昔話に出てくる妖精のようで憎めなくなってしまう。



「……水?」



「正解!!」



老人が言うには……塔から飛んだ先で、守人が受ける試練があるんだと言う。



それが正に今行われた、世界の今を守人自身から感じ取る行為。



そして……それは湖の恩恵を受けられるこの不思議な球体を使用した時のみ、目視する事が可能であり水の恵みの無い森では口頭で伝えられる。



「争い事の無い頃はそれでも良かった。守人から平和を感じ取り、そのまま記憶だけを消して帰って頂いていたのだ」



「何故……私達は記憶を消されるのですか?」



ずっと長い間抱いていた疑問。あまりに真剣な瞳に押されたのか老人はやれやれと口を開く。



「その話は今関係ないのじゃが……淀むのだ」



「淀む?」



「過去の記憶を残したままじゃと、古い記憶と新しい記憶が入り混じって正しく視る事が出来なくなるんじゃな。それで仕方なく……」


< 15 / 23 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop