零才塔
それから月日は流れ……。
立ち寄る街で人々を励まし、平和を訴え、宮殿へ向かう青年があちこちで目撃された。
衣服は今まで塔を登っただけ、のそれより遥かに傷みボロボロであったが、彼の表情は誰よりも生き生きとし、それが取り巻く人々の心を打つ。
その存在は宮殿に住む宮主の元へも届き、彼を慕って一緒に旅に出た人々の行列は日に日に長くなっているようだった。
そんな人の波はやがて、兵士を巻き込み、争いの無い世界を訴える大勢の人々に誰しもが涙した。
今まで一体何をしていたのか。誰も知り得なかったのだ。
人が生きている、ただそれだけの零の状態からでも、些細なきっかけがあれば簡単に争えるのだと。
そんな平和だった時代を想い、零才塔が立った事……までは想い出さなかったとしても。
ミズキの登場で世界は急変した。