零才塔
ミズキは丁度3日前にこの街に帰ってきたばかり。
よれよれの麻の衣服に身を包み、伸び放題のアッシュグレイの髪は整えた形跡も無い。
薄明るい緑の瞳を輝かせるミズキは、ただまっすぐに守殿へと向かっていた。
「主守様、只今戻りました」
「ご苦労だった……今回はどうじゃった?」
主守……守人達を束ねる老人も寄る年波には勝てず、いつからか零才塔の1000段の階段を登ることが出来なくなってしまっていた。
そこで、今はこうして若者達に守人の仕事を託している。
「私の頭の中にはこの街への道のりしかありませんでした」
記憶を失って尚、必ずやまた登らなければいけないような強迫観念に守人は皆襲われる。
だからこそ、答えを見つけにこのミズキも塔へ向かうのだろう。
「いつになったら……我々は零才塔に近づけるのだろうか?」
主守は長く伸びた髭を撫でながら、この若者達が自分と同じような年の重ね方をしていく事を嘆いた。
しかし……一度登ってしまったが最後。何者かに呼ばれるようにまた塔へと消えていくしかないのだ。