17-セブンティーン-
当時の俺は、大人の男というものに計り知れないほどの恐怖心を持っていた。
それは《あの人》のせい。
俺は視線を、父さんの写真から自分の左腕に移す。
長袖に隠れた腕をぎゅっと握り、そっと捲ってみる。
俺の左腕は、火傷の痕がケロイド状に残っていた。
すぐに袖を戻す。
風呂の間も見ないようにしている。
洗うときはぎゅっと目を閉じる。
酒を呑んでいた《あの人》に熱湯をかけられたのだ。
とにかく《あの人》はアルコールが入ると豹変した。
お袋が夜働きに出ていたのをいいことに
アルコールを呑んだあと帰ってきた《あの人》は俺をよく殴ったらしい。
正直当時のことはあまり覚えていない。
だけどこの傷を見ると、吐きたくなるほど頭がおかしくなるような感覚に襲われる。
思い出してはいけないことを
思い出してしまいそうで。
いまだに底知れぬ恐怖のあまり、涙が出そうになってしまう。
当時の俺は大人の男を見ると、《あの人》のように
なにかの拍子に豹変するんじゃないかといつも思っていた。