【ほのB】リトル・プリンス
嵐を呼ぶ男
そいつは、いつも。
土曜日の朝、七時四十分に、僕のベッドへ、やってくる。
まるで、一緒に住んでいる、最愛の人の留守を見越したかのように。
僕達の愛の巣に、土足で上がり込んだかと思うと。
何もかもを、情け容赦なく奪って行くんだ。
例えば。
僕の大切な、安眠、とか。
「お早よっ!
螢(ほたる)!
いつまでも、ぐ~~すか眠てんじゃねぇよ!」
「うぁ~~!
来んじゃねぇ!」
明らかな僕の拒否を、ヤツは、丸々無視しやがった。
しかも。
とうっ!
と、言うかけ声も高らかに。
助走をつけて飛び上がると。
ベッドでへばっている、僕に向かって、ダイビングして来やがった。
そして、文字通り僕のカラダの上に飛び乗ったかと思うと。
僕のくるまっている、上掛け布団を引き剥がしにかかる。
……って冗談じゃねぇ!
「う……あ。
止めろよ!
布団を引っ張るな!
僕に、用があるなら、まず!
部屋に入る前に、ノックしてから来いって!
しかも、僕は、深夜勤だったんだ!
夜中の一時まで看護師の仕事をしてたんだぞ!
九時までは、まだ睡眠中だから絶対起こすなって、 あれほど言ったのに!!」
何事も力ずくで、容赦ないヤツに、布団だけは取られまいと、抵抗して叫べば。
暴虐不人な乱入者は、言った。
「……睡眠中!?
ウソだね!
螢は、ケイタイ小説サイトで、作品を更新してたじゃん!
あんたは、物語を、寝ながら書くのか!?」
「……は?」
驚く僕に、彼は自分のケイタイを取り出すと。
ぱぱっと、操作し、僕に向かって、突きつけた。
「このサイトで、小説書いてる『夜(よる)』って、あんたのことじゃねぇ?」
「……げ!」
見慣れた、青いプロフィール画面に、思わず呻けば。
乱入者は、にやり、と笑いやがった。
「……やっぱり!」