【ほのB】リトル・プリンス
 僕に言いたいことだけ言って、結花や、自分の息子の俊介にも挨拶もせず。

 ひっそり、フラメンコチームから離れてゆく俊樹の後姿が、少しさびしくて。

 そうか、コイツは、僕たちの仲間ではなかったんだっけ、と思い出す。

 生活環境も、一般の暮らしとは、かけ離れて一人。

 昔の僕のように孤独なのかもしれない。

 住んでる家は豪邸だろうし。

 遊んでくれる女たちは、山ほどいるみたいだけども。

 ちゃんと心からくつろげる『帰る場所』はあるんだろうか?

『暴力団の若頭』なんぞには、似合わず。

 ギターの腕があれだけ上手いということは、きっと。

 時間があるときは、ずっと一人で弾いているのかもしれない。

 俊樹の心のよりどころは、もしかすると、ギターだけなのかもしれない。

 ギターと、踊りとは言え。

 同じフラメンコを演じる者同士、ただ、ほっと語りあいたいがために。

 僕をあんなふうに構ったんじゃないのかな?

 そんな俊樹の事が気にかかり……いたたまれなくなって。

 僕は、視界から消える寸前の俊樹に声をかけていた。

「裏社会に戻るつもりはないし。
 水野小路の後ろ盾もいらない。
 ……けど、僕を無理に手に入れようとしたり、莫迦な騒ぎを二度と起こさないって誓うなら。
 あんたにはまた、会ってもいいぜ?」

「え?」

 何だか、一気に明るい表情(かお)になり。

 視線を上げた俊樹に、僕は慌てて手を振った。

「もちろん、個人的に、あんたと付き合う気はないし。
 ましてや絶対、デートなんかしないけどな!
 フラメンコを弾けるヤツは、超貴重なんだ!!
 気が向いたら、結花や、俊介の顔を見に来がてら。
 フラメンコ・チームに曲をつけに来いよ?」

「あはは~~
 気が向いたらなぁ~~」

 気のせいか。

 俊樹は、僕の言葉になんだか嬉しそうに、手を振り返す。

 
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