【ほのB】リトル・プリンス
「明日、ギター(トケ)を担当する、トシキだ。
 プロじゃないけど、結花が歌える曲は、だいたい弾ける。
 日本人で男の踊り手(バイラオール)は、珍しいな。
 かなり、上手いんだって?
 期待しているぜ?
 よろしくな」

 そう言って、気軽に握手に差し出された手は、ギタリストらしく、大きかった。

 プロじゃない、とは言っても、相当弾き込んでいるらしい。

 長い指の先は、爪割れ防止の透明なマニュキアが塗ってあった。

 その範囲がやけに広く。

 利き手の指紋が潰れているように見える。

 つまり。

 普段から証拠を残さない生活を送っているような、そういう人種だ。

 疑い出すと、きりがない。

 一見、穏やかではあるものの。

 ウチのハニーよりも更にシャープで尖っているような顔立ちが、肉食獣の微笑に見える。

 差し出された手を普通に取って握手をするだけなのに。

 猛獣の口の中に自分の手を突っ込む気分がして、ぞっとした。

 とはいえ。

 こういうことは、虚勢も大事で。

 最初に怖い、というコトがバレると、のちのちの関係もよろしくない。

 今は、全く関係ない世界に所属する、この男の使いっ走りになりたくなかったら……

 僕はトシキの視線をそらさず、大きな手を軽く握り、にこっと、ほほ笑んだ。

 力一杯営業スマイルだ、くそったれ。

「バイラオール(踊り)の螢・ヴァルトヒェン・霧谷です。
 歌(カンテ)の結花とは友人なので、一緒にリハをするつもりでしたが。
 まさか。
 前日にギターと会えるとは、思えませんでした。
 僕が上手いかどうかは、さておき。
 楽しんで踊りたいです」

「ああ、そうだな。
 こういうのは、楽しいのが一番だ」

 僕の言葉に、トシキは、嬉しそうに笑った。

「普通、プロは出会ってすぐ、ぶっつけ本番で踊ることが多いからな。
 オレも結花に会いに来たついで、なんだ。
 ま、実は。
 腕については、アマチュアなオレの方が心配だったりして」

 言って、トシキは、握手をしたまま、鋭い瞳をひゅ、と細めた。


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