【ほのB】リトル・プリンス
「ナニを、莫迦な……!」

「ほら、やっぱりそうだ」

 図星を思い切り刺され、うろたえる僕に、トシキは肩をすくめた。

「あんたに、殺気も闘争心もなく。
 本当に明日の舞台のために、リハで踊りに来ているのは、よーく判っている。
 でも、オレ、実は。
 出る所に出ると、ちょっとした有名人でさ。
 まさか、こんな田舎で偶然。
 オレの命を狙う刺客に出くわすなんて、思ってもみてないが……
 あんたが、安全だって証明がほしいな。
 お互い、気持ち良く舞台を成功させるためにも……」

 そう言って、トシキは更に僕に近寄って、鋭くささやいた。

「だいぶ前。
 関東の中堅暴力団『藤沢組』の襲名披露宴のどこかで、絶対、あんたを見た。
 フラメンコのバイラオール。
 螢・ヴァルトヒェン・霧谷、なんて。
 しゃれた名前じゃ、納得いかないぜ?
 必ず裏の世界か、暴力団に関わってるはずだ。
 一体、あんたは。
 ドコ所属の、誰だ?」

 そんな、ごまかせないほど確信をついた目で見るトシキに、僕はため息をついた。

「……確かに、昔。
 僕は、どっかには所属してたし、その襲名披露宴に出た覚えもある。
 でも、今は完全に暴力の世界から足を洗ったし。
 もちろん、もう、誰も傷つける気は、ない」

「……そか」

 僕の言葉に、肉食獣は、あっさり返事を返すと。

 自分のこめかみ当たりを、ぽりぽりと掻いた。

「披露宴出席は認めるんだな?
 それだったらま、いいや。
 確かに、最近。
 ウチと敵対関係の組織に出入りしている、あんたみたいなイケメンの噂は聞いてないし。
 名も無い下っ端な構成員が、あの披露宴には出られ無いから。
 あんたが、オレが把握しきれてない使い捨ての鉄砲玉ってことはない。
 最悪でも、いきなり刺されることはなさそうだ。
 じゃあ、今度は本当に、個人的に聞きたいんだが。
 あんた、結局ドコの誰……」

「うるさいな!
 誰だっていいだろ!」

 トシキの追及が鬱陶しくて、僕の仮面が簡単にはがれてく。

 ……とはいえ。

 もともと薄皮一枚。

 言葉遣いだけだけど。

 それでも、僕の態度のせいかは、知らないが。

 トシキはますます追及して来た。
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