【ほのB】リトル・プリンス
「きゃ~~美人!」

「この人誰?
 螢ちゃん?
 ウソ~~」

「信じられない~~」

 年齢だけ見れば、昔、相手にしていたセレブ、とか言われてる皆さまと変わらないけれど。

 こっちの方が、陽気で、迫力がある。

 群れを成す黄色い声に若干、たじろぎながら、挨拶をすれば。

 彼女達は、声を揃えて言いやがった。




「「「螢ちゃん可愛い~~」」」




 だ~~

 まったく、もう!

 フラメンコ教室での練習には、何度も出ているけれど。

 本格的な舞台は、これが初めてだ。

 確かに、フラメンコとは言え舞台衣装を見せたのは、初めてだけど。

 こんな田舎の街では、化粧した男が、そんなに珍しいんだろうか?

 放っておいたら、ずっと僕に張り付いていそうな、バルデオーラ(女の踊り手)達を更衣室に追い立てたときだった。

 長身のトシキが、僕の背後から、ぬっと出て来て、しみじみ言った。

「すごい人気だなぁ~~
 さすが、雪の……でっ!」

「黙れ!」

 普通の声で、他人には秘密のコトをペラペラしゃべんじゃねぇ!

 みんなには昔。

 歓楽街で『水商売』してたってことは言ってあるけど、それだけなんだからな!

 具体的な名前を出して、僕が『極道』だったってバレたらどうするんだ!

 トシキの足を思いきり踏みつけ、僕は、睨んだ。

「あんたは、カンテ(歌)じゃないだろ?
 トケ(ギター)は、黙って、自分の仕事をしろ!」

「おお~~」

 僕は、フラメンコ用の。

 つま先に、金属の釘を打ちつけた靴で思いきりトシキの足を踏んだのに。

 トシキは、怒りもせずに感心したような声を出した。

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