【ほのB】リトル・プリンス
僕は曲に合わせて、ツカツカと、ギターの前に来ると。
ひらり、と甘く、ファルダをひるがえし。
巻いていたショールを、娼婦が服を緩めるようにずらした。
「ひゅ~~!」
ショールの下には、ボタンを三つほど外した、とはいえ、ゆったりとした長袖のシャツが。
ファルダの下には。
黒のバルデオール(踊り手)用のズボンを履いて居るのが判るだろうに、何を期待しているんだか。
トシキは、フラメンコのかけ声にしても、大分下品な口笛を吹いた。
そして、ますます鼻の下を伸ばして、僕の鎖骨あたりを眺めてるし。
全く、もう!
それからの呼吸は。
トシキ自身の出すギターの音。
次の楽章に、変わったとたん。
ヤツの、鼻っ柱を折るように。
僕は、ショールと、ファルダを、勢い良く脱ぎ捨てる。
その瞬間。
僕は、自分の心の中と舞台の上から『女』の甘さを、全て消し去った。
今までの軽やかなステップから。
コントラパネル(靴で、床を痛めないように設置する板材)を踏み抜かんばかりの重いステップは。
キュートな女の子が変化して、いきなり出現した、男。
キザで、自信家な感じは。
素の『僕』と言うよりも。
大好きな僕の恋人、ハニー。
ハインリヒのイメージだ。
その、事前の打ち合わせの無い。
踊り手の急激な変化に。
アマチュアのトシキが途中で旋律を間違えなかったのは、単純に、凄いと思う。
喧嘩を売るような、僕の踊りに。
トシキの方も、びょょ~~んとした、にやけ顔みたいな演奏から、一転する。
「こ……ん、の野郎!」
なんて、口の中で、小さくつぶやくと。
僕の挑発に乗って、トシキもギターの側版を叩きつけるように、弾いたんだ。