【ほのB】リトル・プリンス
 
 僕は曲に合わせて、ツカツカと、ギターの前に来ると。

 ひらり、と甘く、ファルダをひるがえし。

 巻いていたショールを、娼婦が服を緩めるようにずらした。

「ひゅ~~!」

 ショールの下には、ボタンを三つほど外した、とはいえ、ゆったりとした長袖のシャツが。

 ファルダの下には。

 黒のバルデオール(踊り手)用のズボンを履いて居るのが判るだろうに、何を期待しているんだか。

 トシキは、フラメンコのかけ声にしても、大分下品な口笛を吹いた。

 そして、ますます鼻の下を伸ばして、僕の鎖骨あたりを眺めてるし。

 全く、もう!





 それからの呼吸は。

 トシキ自身の出すギターの音。

 次の楽章に、変わったとたん。

 ヤツの、鼻っ柱を折るように。

 僕は、ショールと、ファルダを、勢い良く脱ぎ捨てる。

 その瞬間。

 僕は、自分の心の中と舞台の上から『女』の甘さを、全て消し去った。

 今までの軽やかなステップから。

 コントラパネル(靴で、床を痛めないように設置する板材)を踏み抜かんばかりの重いステップは。

 キュートな女の子が変化して、いきなり出現した、男。

 キザで、自信家な感じは。

 素の『僕』と言うよりも。

 大好きな僕の恋人、ハニー。

 ハインリヒのイメージだ。

 その、事前の打ち合わせの無い。

 踊り手の急激な変化に。

 アマチュアのトシキが途中で旋律を間違えなかったのは、単純に、凄いと思う。

 喧嘩を売るような、僕の踊りに。

 トシキの方も、びょょ~~んとした、にやけ顔みたいな演奏から、一転する。

「こ……ん、の野郎!」

 なんて、口の中で、小さくつぶやくと。

 僕の挑発に乗って、トシキもギターの側版を叩きつけるように、弾いたんだ。

< 33 / 107 >

この作品をシェア

pagetop