【ほのB】リトル・プリンス
「……螢…君……
 ほた……る……
 ……もう……終わったよ?」

 僕の腕の中に居る女の、かすかな声に。

 ようやく、はっと気がつくと。

 僕の耳元に、拍手の名残が聞こえてきた。

 曲が終わった直後。

 拍手が、盛大に鳴っていたけれど。

 僕が、里佳を抱きしめて居る時間が、長すぎて、みんなが戸惑いはじめた感じの拍手だ。

 これは、マズい。

 しかも……!

 僕は、砕けそうなほど強く抱きしめた、里佳のカラダを慌てて離すと、謝った。

「ごめん……っ!
 里佳に触るつもりは、無かったのに、つい……」

 そう。

 セビジャーナスは、ペアでは踊るものの。

 普通に踊れば、相手に指一本触れずに終わるのに。

 里佳には何も、打ち合わせをすることもなく。

 いきなり、力一杯抱きしめてしまったんだ。

 思い切り、ひっぱたかれるか、泣き出されるのを覚悟で、恐る恐る、里佳を見れば。

 彼女は、先ほど、うっすらと赤らめていた頬を更に上気させて、僕を見た。

「……螢君、すご……い。
 なんだかんだ言っても、やっぱり、君は男のヒトよね~~?
 わたし……螢君のコト。
 好きに、なっちゃいそう……!」

「……!」

 そんな。

 冗談めいて、ささやかれた里佳の言葉に。

 僕は、声も出なかった。

 今。

 ……今、そんな目で、里佳に見られたら、僕は。

 本当に、自分が抑えられなくなってしまう……!

 ハニーと出会って以来。

 久しく無かった。

 くらり、とまわる、めまいのような、 恋の予感が恐ろしく。

 僕は、一歩……二歩、とあとずさった。

「螢……君?」



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