【ほのB】リトル・プリンス
 


 直斗から素直に出て来た『パパ』って言葉が、かなりショックだった。



 女に間違えられたり、そんな扱いを受けるのは、珍しくもない。

 けれども。

『パパ』なんて、聞き慣れない言葉に、くらり、と目が回る。



 僕が、パパ!?

 なんてこった!



 直斗は、クソ生意気だけど、そんなに嫌いじゃない。

 しかも、今朝だってシェリーに言われたはずなのに。

 直斗に本気で『パパ』と呼ばれたことが。

『極道』と呼ばれるより。

『ヤクザ』と罵られるよりも。

 がつんとした、ダメージがあるのは、なんでだろう。

 パパ、と呼ばれて、いきなり年を取った気分になったのか。

 直斗の一途な思いにあてられたのか。

 それとも急に飛び込んで来た、『親』の責任ってヤツにびびったのか。

 僕の、めまいにも似た気持ち……

 要は、腰の引けてる僕なんかの名誉のために。

 直斗は、堂々と、拳を握りしめたんだ。



「僕のパパは、キレイだけど強いんだぞ!
 莫迦にしたら、許さないんだからな!」




 ……いや。



 残念ながら、僕は、そんなに強くない。


 身長二メートルの黒人の大男や。


 怒り狂った二、三人ぐらいの暴力団員を相手にしたほうが、よほど、気が楽だ。


 直斗の言葉に、僕は奥歯をそっとかみしめた。



 
< 62 / 107 >

この作品をシェア

pagetop