【ほのB】リトル・プリンス
「……とりあえず、抱いてやろうか?」
一応、僕は。
親切心で言ったつもりだったのに。
直斗は、僕を睨んで、怒鳴った。
目に一杯涙をためたままで。
「ふざけんなよ!
螢!
あんたは、俺なんて全然好きじゃねぇのに!
同情なんて、するんじゃねぇよ!!」
ガキ同士は、お互い譲れない思いを抱えて、喧嘩してたようだったけど。
『オトナの都合』で、二人を引き剥がし。
よくよく話を聞けば。
結花の他に、女が山ほど居るトシキを父親に持って、とても不安だったらしい俊介に。
父親がいないことを指摘されて腹が立ったことが、直接の原因らしい。
売り言葉に買い言葉で、父さんが居ないくせに!ってヤツの言い草に。
俺には螢が居る!と言ったらしい。
それで、俊介に『一緒に来たのは、母さん?』と聞かれて、キレたと………
……なんだ。
僕は、ただの早瀬倉の代わりなんじゃないか。
たまたま近くにいた男なら、誰でも『パパ』って呼ぶんじゃないか。
そんなふうに、僕は、動揺した分ほっとしてた。
けれども。
心配そうな結花たちに断って家に帰ってもまだ。
泣きべそをかいている直斗を、よしよし、と抱きあげようとしたら。
その、直斗本人に触るな!と、怒鳴られたんだ。
目に、一杯涙をためたままで。
「なんで?
さっきは、トシキからも、俊介からも、僕を守ってくれたんだろ?
だから、今度は、お返しに。
直斗の望み通り、父親代わりをしてやろうと思ったのに――」
あいにく、僕には、家族なんてモノが、存在せず。
特に父親が、こんな時に、どうやって子供を慰めるのか、まったく判らなかったけど。
ココロの痛みを訴えるお子様には、抱きしめて。
軽く、背中でも叩いてやるのが一番だ、と思ったのに。