【ほのB】リトル・プリンス
 そう。

 僕にささやく、シェリーの吐息が、甘い。

 僕は、シェリーの唇から目を離せないまま、虚しく言葉を紡ぐ。

「本当に、今日の僕は、変なんだ。
 だから――」

「そんなの見れば、判るわよ!」

「いいや、判ってない」

 ……シェリーの。

 ハニーに良く似たこの唇は、どんな味がするんだろう?

 まるで、夢遊病のように。

 目の前にいるシェリーに向かって、ふ、と、クビを曲げれば。

 簡単に。

 僕と、シェリーの唇と、唇がつながれ……





 ……る寸前。

 僕は、意志の力を全部使って、ようやく思い止まった。



「螢……ちゃん……?」


 間近に迫った唇に、さすがのシェリーもびっくりしたらしい。

 目を見開いたシェリーの肩に、僕は、額を預けた。

「……ごめ……今、僕、本当に……ダメなんだ」

「ちょっと……!
 一体、何があったの……?」

 もう、絶対、聞いてやる!

 と、腕まくりを初めたシェリーに、僕は、あきらめて話した。

「……実は、さっき。
 フラメンコの練習中に、媚薬を飲まされて……」

「……ええええっ?」

 驚くシェリーの声を聞きながら。

 ぽつぽつと、さっきおきた出来事を話せば。

 シェリーは深々と、ため息をついた。

「……大変ね。
 ……かなり、つらい?」

「……ああ、まあな」

 だから帰れ、と言った、僕の三回目の言葉 に。

 シェリーは、すい、と目を細めた。






「……ねぇ、螢ちゃん。
 このまま……
 ……あたしを抱いて、みない?」


 
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