【ほのB】リトル・プリンス
 言ってハニーは。

 洗っても残る首の噛み跡に、口づけた。

 トシキが僕につけた、ヤツだ……!

「……っ!」

 自分の知らない跡を、消すつもりでいるらしい。

 僕の肌に、強く口づけるハニーの刺激に、僕は、息をのむ。

 さっきまで、ハニーと、疲れきるまで愛を確かめ合っていたはずの、カラダが。

 新しい甘い刺激を求めて、また軽く震えだしたからだ。

「……君に一番近い場所にいるのは、私だと思ってる。
 色事で飯を食う仕事から離れて、普通の看護師になった今でも。
 外見が変わってないから、君がモテることも知ってる。
 ……だから『嫉妬』なんて。
 莫迦莫迦しい事だとも思っているが……
 ……感情がついていかないかないんだ、螢君」

 ハニーは、僕より十センチ以上高い背と、一回り大きなカラダの全部を使って、僕を包み込んだ。

 ……そんなに、力一杯抱きしめたら、折れるよ、ハニー。

 ハニーは、何も言わなかったけれども。

『どこにも行くな』なんて、声が聞こえてきそうだ。

 ハニーは、僕より十才年上で。

 何だか偉いらしい、博士のくせに、まったくもう。

 時々、直斗よりも子供っぽいなって、思う事がある。

 だけど。



 ……愛してるよ、ハニー。



 だから、僕は。

 誰からの誘いも断ったし。

 ……どんな誘惑にも見向きもしなかったろ?

 僕は、抱きしめ続けるハニーの背中に、腕を回すと。

 ハニーの首筋に、顔をうずめて、ささやいた。

「世界で一番、大好きだよ、ハニー。
 僕は、どこにもいかないよ」


 男同士のペアなんて『家族』を構成するには、中途半端な僕たちだけど。

 ずっと、ずっと。

 僕らは年を取って死ぬまで、一緒にいるんだ。

 そう。

 それが僕たちの。

 たったひとつの。

 永遠の願い、なんだから。



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