【ほのB】リトル・プリンス
 

 これ以上、ハニーに心配をかけるワケには、いかない。

 けれども、黙っていたら、余計気にするだろう。

 僕の中では解決済みな、シェリーが迫って来た、と言うヤツ以外。

 朝から起きた出来事を話せば。

 風呂上がりに、パスローブだけを着て。

 ミネラル・ウォーターを飲んでいたハニーが、深々と、眉間にシワを寄せた。

「……媚薬を使われた?」

「ああ、だけど。
  ハニー以外の誰にも、カラダは、許してないよ?
 ……クビを噛まれて腹が立ったから、殴り倒しては来たけど」

「かなり大きな、暴力団の幹部らしい男を?
 それは……危険じゃないのか?
 もし、怒らせて、大勢が君を狙ったら……」

「……ハニーは僕が、他の誰かに、抱かれてもいいのかい?」

「絶対嫌だ!」

 まるで、子供もみたいだ。

 素直なハニーに、僕は、微笑んだ。

「……大丈夫だよ。
 ああいったヤツらは、面子(メンツ)って言うのを大切にしているから。
 相手が、大物であればあるほど、僕みたいな軟弱そうなヤツにやられた、なんて言わないんだ」

 ん、で。

 獣みたいな雰囲気のトシキとは、積極的に戦(や)りたくないけど。

 あの分じゃ1対1なら、僕の方が強い。

 先に手を出してたのは、向こうだし。

 ノンケの男が、男に手を出した挙げ句。

 拒否されて、たった一発で殴り倒された、なんてことは。

 絶対に誰にも知られたくないだろう。

 明日、多少嫌がらせくらいは、して来るとは思うけど。

 決定的にマズいことは起こらないだろうと、踏んでいた。

「……しかし、螢君」

「なんだい?」

「そいつは。
 君の職場にいる、同僚の彼氏だろう?
 しかも、君は。
 自主練習も含めて、最低週二は、フラメンコのダンス・スタジオに通っているじゃないか。
 これからも、会うことはあるし。無理難題を押しつけてくるんじゃないか」

「……どうかな?
 こんな生活をはじめて、だいぶ経つのに、出会ったのが『今』だろ?
 そもそもノンケの男だし。
 『仕事』の他にも、女の相手だけでも色々忙しそうだよ。
 僕をかまって遊ぶほど、暇なヤツでも無いんじゃないか?」
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