僕らの瞳にうつる世界。
第10章‐愛しさと憎しみの狭間‐
先輩は事故のショックから記憶を失った。
でも病院の先生はきっと元に戻ると言った。
…時間はかかるかもしれないけど。
「先輩、来ましたよっ」
「またお前か…」
元気よく、病室の扉を開けて笑って見せる。そんな私を以前と変わらない、うざそうな顔をした先輩が迎えた。
――あれから1週間が経とうとしていた。
「来ねぇかな、宝」
昨日の花と今日新しく買って来た花を交換する。
…時間が経つに連れ、先輩は色々なことを思い出して行ったけれど。
「石田、だっけ?水取ってくんね?」
まだ、あたしのことだけは
思い出してはくれない。