それでもあなたに恋をする




「それは困ります。俺の今までの努力が無駄になってしまう。」







後ろから冷静な声がした。


その声の主は、強い力で掴まれていたはずの私の腕を振りほどき、後ろから私を抱きすくめる。





「・・・どう、して?」




私が想像していたよりずっと筋肉のついていたその人の腕に包まれ、上を見上げて顔を見る。


でもその目は、目の前の彼を冷静に見据えていて。



上昇する私の体温とか心拍数とか、気付いていないのかもしれない。






「君、悪いけど邪魔しないでくれるかな?」


彼はと言えば、咳払いをして何事も無かったように振舞っている。

咳払いひとつでスイッチを切り替えられる彼はやっぱり大人だと感心してしまうけど、今までは魅力的だったそんな態度が、今の私には下らない見栄にしか映らない。




それよりも、


冷静さを装ってはいるけれど、彼から守るように自分の後ろに私をかばうこの人が、眩しく見えて仕方ない。




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