【短編】12年の想い
家に入るといつものように誰もいない。

親は共働き。

お兄ちゃんやってほんまは仕事やったけど”最後くらい迎え行ってやりたい。”言うたからお願いした。

したらあの有様や。

”最後やから車自慢したい。”の間違いやったんやろうな。


部屋に戻って着替え、玄関を飛び出した。

見慣れたいつもの住宅街なのに卒業したってだけで心が軽い気がする。

これで大人の仲間入りやって。

学生やない=大人やって。


うちの隣の家に行き、そしてチャイムを押す。


「はい。」


「亮ちゃん♪千代子だよ♪」


きっとどの人ともこんな風にウキウキは喋らないんじゃないかな。


「チョコ?鍵あいとるで。」

やっぱり亮ちゃんやってチョコって呼ぶ。

亮ちゃんにだけは千代子って呼んで欲しいのに。

でも贅沢はいえないし


「は~い♪」

って言って前に進んだ。


こんな風に行くっておかしいこと??

でもうちらは普通なんだ。

いつものように亮ちゃんの部屋に押しかけては、ぷよぷよとかマリオカートみたいな簡単なゲーム対戦しとる。

その時間がほんま幸せ。


いつものように玄関をあけ、靴を脱いでリビングに進んだ。

そこにはいつものようにこっちを向いて微笑む亮ちゃんがおった。

その亮ちゃんの胸にいつものようにわたしは飛び込む。


「亮ちゃ~ん、卒業したよ♪」


「よ~頑張ったな。」


そう言っていつものように頭を撫でてくれる亮ちゃん。

わたしはそんな亮ちゃんを見上げて


「もう子どもやないで♪」


って自信満々に言った。
< 4 / 32 >

この作品をシェア

pagetop