死にたかった

雨ちゃんと彼の家はとても近い。
幼なじみと言うだけあって、お互いの親同士も仲が良いらしい。
昔から気軽に行き来し合っていたようだし、実際今でもそうだ。
だからよく私が彼の家に行くと、既にそこに雨ちゃんがいたり、だとかそういうことはよくあった。
けれどそれは決して悪質なものではなくて、雨ちゃんは私が来るとすぐにそこを去った。
気を使わなくていいのに、その言葉は飲み込んだ。
そんなことを言ったらきっと、彼も、雨ちゃんも、困ってしまう。
彼の母親はとても良い人で、気軽に私に声を掛けてくれる。
ついでに雨ちゃんの母親も素晴らしく素敵な人で、まるで自分の子供のように、私に接してくれる。
それはきっと、雨ちゃんの母親にとって彼は、雨ちゃんと同じ自分の子供のような存在だからなのだと思う。だからきっと私には、自分の息子の彼女、だと思って接してくれているのかもしれない。
雨ちゃんの彼に対する気持ちに気付いている人が、他にいるかは分からない。
例えば、彼。
彼は不思議な人だから、雨ちゃんの気持ちに気付いているのか気付いていないのかがよく分からない。
気付いていたとすれば、それは雨ちゃんに申し訳ないことだと思う。
気付いていないのかもしれない。でもきっと、彼はそこまで鈍感じゃない。
< 3 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop