死にたかった

雨ちゃんが目を閉じてからも彼は雨ちゃんの名前をずっと呼んでいた。
でも雨ちゃんの目は開かなかった。
私の友達だとかその周りの人だとかはそんな彼と雨ちゃんの光景にただ涙を流していた。
気付かないうちに取り押さえられていたらしい様子の犯人の女の子でさえも泣いていた。
ああきっと。私が刺されておけば。
こんなにたくさんの涙が流れることはなかった。
優しくて可愛くてみんなから愛されていた雨ちゃんを、失うことはなかった。
雨ちゃんを好きだという生徒がたくさんいることを私は知っていた。
そんな人たちにも本当に悪いことをしたと思う。
悪いことをした、なんてそんな簡単な言葉じゃ片付かないと思う。
私はただ、自分がどうすべきかを考えていた。
自分が死ぬべきか。
彼は一緒に救急車に乗っていった。
そのあと友達と一緒に職員室に連れて行かれて、いろんなことを聞かれた。
友達も犯人の女の子もみんな泣いていて、その中で私だけ泣いていなかったから、話せることは全部私が話した。
その日は午後の授業はないまま早く家に帰るようにと言われた。
久しぶりに友達と家に帰った。
友達は私を気遣ってわざわざ家に送ってくれた。
誰もいない家で私はただ、楽しかった日々を、もう二度と戻ってこない瞬間を、思い出していた。それでも涙は出なかった。
< 8 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop