月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「先生」

後ろにいた看護婦がとがめるように言う。

「すまんね、婦長」

藤上先生は頭をかいた。

「まぁ、先生の言うことが外れてるわけじゃないですけど」

婦長さんがあたしの顔をまじまじと見る。

そ、そんなに生気ないか?

何か別の病気でも患ったのだろうか。

「でも、若い女の子が一日中部屋の中にいればこうなるわよね」

「でしょう」

婦長さんと藤上先生は顔を見合わせて笑った。

…なんだ、退屈してるのを見抜かれただけか。

「婦長、入院生活のコツを教えてやったらどうだい?」

「いやでも若い人の事はよくわからなくて…」

そしてまた2人は声を揃えて笑った。

仲良さそうだな~。

険悪な雰囲気を作られても困るけどさ。

その後も幾つかやり取りがあったが、藤上先生と婦長さんの会話にはテンポの良さがあった。

あたしは達郎兄ちゃんと麗美姉ちゃんのそれを思い出した。

「怪我の方は問題ない」

診察を終えた藤上先生が言った。

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