月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「後は入院生活をどう過ごすかだな。趣味があったら、それに専念してなさい。怪我と病院の規則に触らない範囲で」

藤上先生と婦長さんが出て行った後、あたしはベッド脇の棚に置いてあった手鏡を手にした。

先生たちの言う、生気がない顔がどんなものか見てみたかったのだ。

恐る恐る鏡を覗き込む。

いつもと変わりない顔がそこにあった。

少し無表情なぐらいか。

でも、年に何百人もの患者の顔を見てる人たちが言うのだから、あながちではないかも。

「趣味か…」

あたしは藤上先生の言葉を思い出した。

でもあたし、趣味らしい趣味ってないんだよな。

一番好きなことは友達とワイワイ騒ぐことだけど、病院じゃ絶対にムリだし。

静かに病室で出来ることと言うと、読書とか、編み物とか…。

読書はともかく、編み物はやったことないな。

てかあたし不器用だし。

かと言ってこのまま退院までボーッとしてても、生気がない顔になっちゃうしなー。

< 11 / 166 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop