月と太陽の事件簿16/さようならの向こう側
「あ」

あたしはあることに気付いた。

「携帯、部屋に忘れた」

「どうせ持ってても使えないだろ」

「気分の問題よ」

あたしは達郎兄ちゃんに向かって手を合わせた。

「お願い達郎兄ちゃん、一回戻って」

達郎兄ちゃんは素直に車椅子を押してくれた。

あたしの病室がある五階につき、廊下を進んでいると、あたしの視界に見慣れた人影が入った。

「あ、和夫さんだ」

「和夫さんて、多江さんの恋人の?」

「弟で、多江さんのことが好きな…」

和夫さんはあたしたちに気付いた風もなく、うつむいたまま階段を登っていった。

「なんで病院(ここ)にいるんだろ」

もう多江さんはいないのに。

「てかカホ」

「なに?」

「ここ、五階だよな」

「当たり前でしょ」

「上はもう屋上しかないよな」

「うん」

「ずいぶん思い詰めた顔してなかったか」

「…!」

あたしは達郎兄ちゃんが言おうとしていることを理解した。

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